周平「……気に入らないか? 裕太、ずっとむすっとしてる」
裕太「理由……分かってるだろ」
周平「はは。なんだ、バイトのことか?」
裕太「当たり前だろ! 勝手に決めて……ひどいよ、兄ちゃん」
周平「当然のことだろ。お前は学生なんだから。
……今までは生活のために仕方なくやっていた。
俺が帰って来たんだから、もう必要ない。そうだろう?
今お前が学ぶべきものは勉学だ。
将来嫌でも働くことにはなるんだから、
今の時期は勉強に集中するべきだ」
裕太「うっ……。だ、だけど……でも、オレ自身のことなのに……!」
周平「いや、お前はまだ学生の身分で1人立ちしているわけじゃない。
両親が遠方にいる以上、お前の保護者は兄の俺だ。俺の責任だ」
兄ちゃんは滑らかに喋りながら、
真鯛のソテーを切ってキャビアと香草を乗せ、
ソースを絡めてスイスイと口に運ぶ。
白ワインのグラスを干せば、
頭の後ろに目のついたウェイターがしずしずとやって来て
慣れた手つきでボトルを傾ける。
兄ちゃんは、この場所に、いかにもはまってる。
経済力のある大人の男。……そんな感じ。
周平「……いい加減機嫌直せって」
裕太「別に……。もう、いいよ」
……オレが甘過ぎたんだよな。
兄ちゃんの性格、もっと早くに思い出してればよかったんだけど……。
この歳になっても兄ちゃんに管理されまくってるなんて
腹が立って仕方ないけど、もう過ぎちゃったことだし……。
それに、せっかく目の前に美味しそうな料理があるのに、
こんなんじゃいつまで経っても味わえないよな、うん。
オレは気を取り直して、仔羊のポワレを切ってひとくち
頬張った。
うう、おいしい……幸せだなあ……。
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