諒「……? 裕太?
もしかして、脚が痺れて立ち上がれない……のか?」
無言でこくこくと頷いた。頭上で諒の噴き出す音がする。
裕太「ひ、ひどいよぉっ……マジでしんどいのにっ!」
諒「あっははは……! ば、ばかだなあ裕太は。
そんなになる前に、崩せばよかったんだ」
笑いながらオレの側に膝をつく諒。
もうさっきまでの家元然とした雰囲気は消えて、いつもの諒に戻ってる。
するりと脇の下に手を入れられて、驚いた。
裕太「へ? な、なに?」
諒「歩けないんだろ? 抱き上げてってやるよ」
裕太「ちょっ、諒!! む、無理だよさすがに!
オレだって一応男だし! 重いし!!」
諒「ばかだなあ。お前ぐらい全然平気だよ」
裕太「お、おい、諒っ……」
動けないのをいいことに、諒はオレの抗議を無視して
膝裏にもう片方の手を入れ、軽々と抱き上げた。
体の浮いた不安感に、思わずオレは諒の首にしがみつく。
そしたら、着物から覗く首筋の皮膚に思わず目を奪われた。
普段からあまり肌を露出する服を着ない
諒の首から背中にかけての肌は、意外なほど白かった。
諒「まったく……裕太は軽過ぎるよ。お前これ、50いってないだろ」
裕太「う、うん……なかなか、それ以上にならないんだ」
諒「まあ、太れない骨格ってのもあるらしいからな。
……それにしてももうちょっと肉付けたっていいと思うぜ」
お互いの顔を見ないで交わす会話が不思議だった。
諒の声、諒の体のはずなのに、
この着物の襟足を見ながら話していると、別人みたいで。
やっぱり着物を着た諒って、違う感じがする。
裕太「諒ってさ……」
諒「ん?」
裕太「着物、似合うよな」
諒「な、なんだよ……いきなり」
裕太「さっきもさ。スゲエかっこよかった。びっくりしちゃったよ」
諒「ばっ……バカ。お茶点てるのなんて、ちっともかっこよくないよ」
オレは思わず噴き出した。
顔は見えなくても肌が首筋まで赤くなってて、
諒がすごく照れてんのが分かったから。
諒「な、なに笑ってんのさ」
裕太「ううん。何でもないよー」
小さい頃から知ってたはずなのに、今日初めて知った諒の別の顔。
それがすごく新鮮で、オレは何だか嬉しかった。
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