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PIL/SLASH第二弾!コイビト遊戯

スペシャル


::: 第2位 滝沢蓮編  :::
■ 恋のヤマイ -Takizawa × Yuta− / 文・画:丸木文華 ■



■恋のヤマイ■

「うえ、何これ……お前、マジ?」
「何がだよ……」
「こんな物置みてえなところに人間住めんのか? つーかここ、クローゼットくらいの広さしかねえじゃんよ」
「っ……冷やかしに来たんなら帰れよ! よけい具合悪くなんだろ!!」
  オレは痛む喉を振り絞って滝沢を怒鳴りつけた。直後、くらっと目の前の世界が歪む。
  そう、今オレは絶賛風邪引き中。 更に運の悪いことに同居中の兄ちゃんが一週間の出張中で、今朝突然発熱したオレはずっと何も食べられず、 布団の中にくるまって唸っているしかなかった。
  今日は幸い休日で学校はなかったけれど、滝沢と遊ぶ約束をしてたから、何とか携帯でメールを打って、風邪をひいたことを伝えたんだけど……。
「風邪なんて教えなきゃよかった……」
「ん? 何か言ったかよ」
  しかしほんっと狭いなーとか何とか言いながら部屋にどかどか上がり込んで来る滝沢。……こいつ、絶対今まで看病なんかしたことない。多分これは風邪のお見舞いに来てくれたんだろうけど、どう見ても物珍しいビンボーな部屋を見学しにきたようにしか見えないぞ。
  部屋の中をじろじろと眺めながら、マフラーとコートを脱ぎつつ歩き回る滝沢をオレは恨めしげに見上げた。
「……おい、あんまりどかどか歩き回るなよ。下の階に苦情言われる」
「はあ? この程度で響くのか? どんだけボロアパートなんだよ、ここ。その内崩壊すんじゃねーの」
「マジで……帰ってくれ、お前……」
「おいおい何でだよ」
  滝沢はバカにしたように鼻で笑って、布団から半身を起こしたオレの傍らにあぐらをかいた。
「今来たばっかじゃん。おら、風邪なんだろ。大量に買って来たから、これ飲め」
「え……何だ、これ……赤まむし??」
  滝沢の差し出したコンビニのビニール袋の中を覗いてみると、 見慣れないドリンク剤がたくさん入っている。
「栄養ドリンクだって。一本飲むだけで相当精がつくぜ。オレも仕事でへばったときはよく飲んでる」
「そ……そうなのか。サンキュ……」
  すごい字面の踊っているパッケージに一本一本入っている黒いビン。……確かこれって、ひとつだけでもかなり高かったよな。値段ちらっと見ただけで頭が拒否して、今まで一回も買ったことなかったけど。
  試しに一本フタを開けて、ひとくち含んでみる。……うーん。想像してたよりはまずくない。っていうか苦いと思ってたから、甘くてびっくりした。
「飲んだか?」
「うん。案外飲みやすいんだな」
「藍川、お前さあ、普段からこれ飲んどけよ。お前ひ弱過ぎんだからよ。……あ」
「ん?」
「そう言えば、お前の兄貴は?」
  今更兄ちゃんの不在に気付いたのか、滝沢は意外そうな声を出した。
「風邪っぴきのお前置いて出かけるなんて、あの過保護兄貴らしくねえな」
「今出張中なんだ。来週まで帰って来ないよ」
「へえ、そうなのか。そんじゃ、お前メシ食ってねえだろ」
「う、うん……ずっと寝てたし……」
  なぜか嬉しそうな顔になる滝沢に、首を傾げる。
「見舞いにと思って馴染みの店に頼んどいたんだ。もうすぐ来るんじゃね?」
「へ……?」

  そのとき、アパートの外でバイクの止まる音がした。すぐに階段を上がって来る気配がする。お、丁度来たかと呟いて、滝沢が立ち上がって、ドアの方へ歩いて行く。
「おー、ご苦労さん。ここだって、この部屋」
「ああ、どうも。毎度ありがとうございます!」
  慣れたやり取りを交わした後、滝沢は何やら仰々しい包みを片手に戻って来た。オレは半ば唖然としてそれを眺める。
「それ……なに……?」
「弁当だよ、見りゃ分かるだろ。親父がよく行ってる料亭の仕出し弁当」
  何でもないことのように言って、包みをとる。すると現れたのは紅白梅の蒔絵の描かれた漆器の重箱で、ふたを開けると巨大な伊勢海老やら柚子をくり抜いた中に詰められた蟹やら焼き味噌の塗られた帆立貝やらが所狭しと並んでいて、もしかしなくてもそれは懐石料理というやつだった。
  普段のオレなら彩り鮮やかなその弁当に目を輝かせるだろうけど、悲しいかな今は寝込み中だ。だるくて食欲なんかありゃしない。
「ほら、食えよ。腹減ってるだろ?」
「あ……ありがと。……でも、その……今ちょっと食欲ないんだ。後で食うよ」
「マジで!?」
  オレの言葉に、滝沢は大げさに驚いた。
「お前が食欲ないなんて、天変地異でも起きるんじゃねーの」
「あ、あのなー。お前だって風邪ひいたことあるだろ! 普通は食欲なくなるって」
「ふうん? 熱、そんなに出てんのか」
  ぴたっとおでこに冷えた手を当てて来る。アイスノンみたいで気持ちいい。オレの熱が高いだけじゃなくて、滝沢が寒い外を歩いて来たせいもあるだろう。大きな手の平が氷のように冷たい。
「……っていうか、この部屋寒いんじゃねえの? 暖房入ってんのかよ」
「一応な。オンボロだから、あんまり利かないんだ。オレは暑くてたまんないから、丁度いいっちゃいいんだけど……」
「ふーん……」
  滝沢はおもむろにオレの頭をくしゃっと撫でた。今頃になってオレを病人と認識したのか、労るような表情になっている。
「……何か他にやって欲しいこととかあるか?」
「え? そうだな……水、飲みたいかも。冷蔵庫にミネラルウォーターのボトルあるんだけど」
「了解」
「あ、ついでにそこの棚の丸い塗り薬、取ってくれる?」
「塗り薬? ……ああ、これか」
  滝沢に水のボトルと棚の中にある薬用のジェルを持って来てもらう。グラスに注いだミネラルウォーターを飲んでいる最中、滝沢は不思議そうに薬の容器を眺めていた。
「なんだこれ? 風邪なのに飲むんじゃなくて塗るのか?」
「うん。胸に塗ると呼吸が楽になるんだ。熱出すと、いつも息が苦しくなるから」
  小さい頃、兄ちゃんによく塗ってもらった。だから子供用の薬なんだけど、未だに頻繁に発熱して気管支を痛めるオレはこれが手放せない。塗るとすごく気持ちいいんだ。胸の熱で溶けた薬が、呼吸をすると鼻から入って来て、スースーして落ち着く。
  滝沢は丸い容器の中の緑色のジェルをしげしげと眺めた。
「へえ……オレこんなの初めて見た」
「基本的に子供が使うやつだからな」
「ふーん。……そんじゃオレが塗ってやる」
「え?」

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